M&A会社のDMについて

公開:2022年3月16日

コラム

はじめに

本コラムでは、経営者の皆さまに毎週のように恐らく複数通届いていると思われる、M&A仲介会社からのDMについて、現役M&Aアドバイザーができるだけ中立・公正な立場で、述べさせていただきます。どうしても一部記載で主観が入ってしまう部分もありますが、いち意見としてご参考にしていただければ幸いです。

なお、ここで指すM&Aとは中堅中小企業におけるM&Aを示しています。何卒ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

M&A会社のDMとは

M&A会社のDMとは、特に特定の金融機関に所属しない独立系のM&A仲介会社が、主に譲渡候補と想定される会社に対して、その法人の本店所在地や代表取締役の自宅に送付するダイレクトメールです。

M&A仲介会社目線のDMの目的は、シンプルに申し上げると、「経営者の譲渡ニーズの喚起」となります。つまり、日頃から会社及び経営者個人の過去・現在・将来に課題感を感じている経営者に対して、解決策として第三者への譲渡(M&A)を提案し、そのプロセスに進むことを暗に提唱しています。

また、当該DMの送付リストは、東京商工リサーチ・帝国データバンク・各種業界団体からデータを収集して作成されることが多いです(たまに「なぜ自宅にDMがくるのか?」と聞かれることがありますが、代表取締役の住所は謄本で確認できますし、リサーチ会社の企業リストにも代表者個人の住所が掲載されていることが多いです。)。

DMに中身はあるのか?

ここ数年、筆者にも「M&A会社からDMがたくさん来るが、その手紙の内容は本当なのか?」という問い合わせを度々受けます。実際に、他社様の経営者の譲渡ニーズを喚起するDMを見せていただく機会もありますが、DMの記載内容について、大枠は下記2点に集約されていると感じます。

  1. 貴社(または貴社のような企業)に関心がある買い手がある。
  2. よって、関心がある場合は、(M&A仲介会社の)担当者と会って欲しい。

ここで重要、かつ、皆さまの質問の中身は、上記①に係る「本当に買い手はいるのか?」に尽きると思います。その考察をするためには、M&A仲介会社がどのようなプロセスでDMを送付しているかを知る必要があります。多くは、下記3パターンに分かれます。

  1. 業種、規模感、本店所在地、経営者の年齢などで大雑把にリスト化して一斉送付
  2. ①より更に項目を追加または細分化して、より絞ったリストを作成の上、一斉送付
  3. 買い手等から個社名を聞いて、ピンポイントで送付

実際に、上記①~③のどのパターンで経営者の皆さまの手元に届いているかは分かりませんが、感覚的には①or②のパターンが多いと思います(そもそも③のパターンは、絶対数が少ないです。)。

しかしながら、そこで例え③であっても、1つこういう問いを出したいです。
「皆さまの会社は、上場会社並みに積極的に情報開示をされていますか?」

ほとんどの方はNoという回答になるのでしょう。何が言いたいか?次のとおり説明します。

M&Aは簡単ではない

はい、これが筆者の結論です(この項目は、主観丸出しで誠に申し訳ございません。)。

逆の立場になって考えていただくと分かりますが、皆さまがお知り合いの会社を買いたいとします。その相手先の社長とは何年、何十年と知人との飲み会、業界の集まり、個人的な付き合いを通じて親交を深めていたとします。社長とは仲が良いからM&Aも万事大丈夫です!、、、いいでしょう。では奥様やお子様の考えは知っていますか?従業員の採用・育成状況は?業界の先行きは?昨今の営業状況は?決算書の数値の正しさは?過去のトラブルの有無は?皆さまは一体何をどこまで知っているのでしょうか?

私たちは、夫婦や友人であっても、相手が本当に何を考え、どういう状況にあるかを知ることは難しいと思います。ビジネス関係で仲がよくても、相手にも自分にも別の顔があることは若輩者の私が言うまでもないことです。会社の規模感が小さいから無視できることも全くなく、M&Aはあらゆる重要なことを検討する必要があります。

リサーチ会社に多くの情報を開示し、会社HPに積極的に情報開示をしている企業であっても情報の精度や粒度は100%ではないので、買い手が必要で十分とする売り手の情報を入手できることはほとんどありません。実際は、想いを聞いて、資料を受領及び分析して、ある程度時間をかけて価格を提示し、調査し、折り合い、譲渡に至るのです。

残念ながら、現状のM&A仲介ビジネスにおいて、実際に買い手がいるか否かを売り手が判断することは難しく、情報の非対称性の観点からブラックボックスとなっているのが現状です。しかし、DMの「買い手はいる」にレベル感はあれど、諸条件等も既に折り合っている真の意味でマッチングをしていることはあり得なく、あくまで買い手「候補先」がいる「かもしれない」というレベル感で聞くにとどめるべきです。M&Aは難しいのです。

DMが届いた時の対応は?

厳しいことを言いましたが、DMの全てが悪ではなくて、DMをきっかけにM&Aを検討するようになって、譲渡を実行し、実際に前向きな未来を歩まれている売り手も多く知っています。そこで、下記のとおり、DMが届いた時の対応を整理します。

  1. 今後10年以上、M&Aの譲渡ニーズがない場合
    ・封を開けずに捨てる
    ・買い手として、会ってみる
  2. 今後5~10年ぐらいの期間で、M&Aを検討したい。
    ・封を開けて、ファイリングする意図)特に地方の会社様の場合、M&A仲介会社が一定のエリア制を採用している場合があり、今後のために顔をぱっと見ておくことに多少の意味はあるかもしれません。
  3. 今後1~3年ぐらいの期間で、M&Aを検討したい。
    ・連絡をする前に、他にも連絡する仲介会社や金融機関がないか検討の上、なるべく同時期に相談をする。
    意図)主観ですが、M&Aを依頼する前には、複数社比較の上、信頼できる方に依頼すべきと考えています。

おわりに

当M&Aレポートとして、中立公正な立場でM&A会社のDMについて記載させていただきました。他にも記載して欲しい内容があれば、お応えできるかは分かりませんが、地域M&Aにおける情報格差を低減するために、筆を走らせたいと考えています。

(文責:土井 一真 公認会計士・税理士)