サーチファンド(Search Fund)とは、経営者を目指す個人等が、自ら経営する会社を探し、その会社をM&Aで取得するための資金を集めるために設立するファンドを指します。全国的な後継者不在率の高まりから、事業承継における課題の解決方法として、近年注目が集まっています。サーチファンドの仕組みの概要と地域における取組についてまとめました。
記事のポイント
- 「サーチファンド」は、経営者を目指す個人等が、経営する会社をM&Aで取得するために立ち上げるファンド。
- 全国的な事業承継の課題解決や、経営者を目指す個人等の活躍の場として注目。
- 地域では山口フィナンシャルグループがいち早く取り組んでおり、日本初の第一号案件を2020年2月に実行。
サーチファンドとは?ファンドの仕組み
サーチファンド(Search Fund)とは、経営者を目指す個人等が、自ら経営する会社を探し、その会社をM&Aで取得するための資金を集めるために設立するファンドを指します。その歴史は古く1980年代にアメリカで誕生したモデルと言われています。
サーチファンドの仕組みは、「サーチャー」と呼ばれる経営者を目指す個人等に対して、買収先を探すための「サーチ費用」と、買収したい会社が見つかった場合、その会社を買収するための費用を投資家が出資します。サーチャーは、買収先候補先の探索から、買収交渉や資金調達、デューデリジェンスを一気通貫で行います。目的とするような買収先が見つからない場合は一旦ファンドはクローズとなります。どのような会社をM&Aにより買収するか、買収した後の経営を上手く活かせることができるか等、サーチャーの資質によるところが大きい仕組みとなります。
会社売却によるキャピタルゲインを目的とするファンドは、リターンの確率を高めるため、複数の投資先を選定しますが、サーチファンドの場合、その目的は、社長となり、経営者となる会社の経営権の取得となりますので、投資する対象は、その候補となる1社であるケースが多いのが特徴です。会社をM&Aで取得した後は、欧米等では企業価値を向上させ、売却しキャピタルゲインを得るという流れのようですが、日本ではそもそものサーチファンドの事例が少ない一方で、後継者不足による事業承継の課題解決のためのソリューションの一つとして注目されています。
なぜサーチファンドが注目されるのか?
後継者不在率は全国約65%。全国的に後継者不足が課題。
日本ではまだサーチファンドの取組の事例は少ないのが現状です。それにも関わらず、「サーチファンド」という言葉が注目されている要因の背景の一つは、日本経済の成熟化による経営における後継者不在問題です。帝国データバンクによると、後継者不在率は低下傾向ではあるものの2019年は65.2%(2年連続低下)と高い水準で推移しています。また、日本における全国の経営者の平均年齢は59.9歳となっており、特に地域においてその傾向が高いと言えます。
(帝国データバンクによる調査結果) このように日本経済の成熟化による後継者不在率の高まりが社会問題化しており、その解決手法の一つとしてサーチファンドが注目されています。日本では、株式会社Japan Search Fund Acceleratorが先駆けて事業展開しており、先日その取組が日経新聞の記事でも「若者に投資、地方の中小を元気に 事業承継を支援」という記事で掲載されていました。以下で紹介する山口フィナンシャルグループが展開するサーチファンドの取組にも関わられています。 (Japan Search Fund Accelerator社HP)http://japan-sfa.com/
【2020年12月2日更新】 日本最大手のM&A仲介会社である日本M&Aセンターは、2020年10月に「株式会社サーチファンド・ジャパン」を立ち上げました。同社は2020年11月に「サーチファンド・ジャパン第1号投資事業有限責任組合」というファンド総額約10億円、運用期間10年の、日本初の全国を対象としたサーチファンド形式での企業投資ファンドを組成しています。 (サーチファンド・ジャパンによるプレスリリース) ・【日本初】全国対象のサーチファンド形式の投資をスタート 合弁会社 サーチファンド・ジャパン、1号ファンド設立のお知らせ -サーチャー(経営者候補)の募集・選考も本格化-経営者を目指す「個人」が活躍する時代へ
2013年6月に公表された「日本再興戦略」において「開・廃業率10%台」が目標として掲げられてから、国・地域自治体等の行政による様々な創業支援施策や、ベンチャー・スタートアップ支援施策が展開されました。開業率は、1998年より減少傾向でしたが、近年上昇傾向であり、2018年には5.6%を記録し、2019年には4.4%と減少しました(出典:中小企業庁「中小企業白書」)。ベンチャー・スタートアップにおいても、資金調達社数・調達額は全体で増加傾向にあります(参考:INITIAL社「2020上半期 Japan Startup Finance」)。このような状況の中、一時期と比べると、全国においても創業機運が高まり、ベンチャー・スタートアップといった言葉も身近に感じるようになりました。
創業・起業のようにビジネスを「0」から立ち上げる際には、とてつもない熱量が必要となります。そういった「0→1」という手段だけではなく、M&Aを活用することで、既にビジネスモデルが構築されており、リソースがある会社をM&Aで取得し、「0→1」の起業家ではなく、最初から経営者を目指すという選択肢も広がりつつあります。ただし、経営者として参画する場合も、ビジネスへの理解や、既に会社に所属しているメンバーのマネジメント、M&Aで取得するビジネスをどのように成長させたいか等、経営に関するノウハウが必要になりますので、単純に「ないものは買えばよい」という議論ではなく、経営者を目指す個人等の力量が問われる点は共通しています。
創業機運が高まり、経営者を目指す者が増加する中で、全国的な課題である事業承継と掛け合わせて、「起業家」ではなく「経営者」という形で、会社をM&Aで取得し、既存のリソースを活かす形の一つとして「サーチファンド」のような選択肢が注目されています。また、起業・経営を目指す者だけでなく、ファンド資金を出資する投資家にとっても、新たな(かつ、利回りの高い)投資手法となることが期待されています。
地域におけるサーチファンドの取組事例
いち早く、サーチファンドに取り組む山口フィナンシャルグループ
山口フィナンシャルグループは、2019年に「YMFG Search Fund」投資事業有限責任組合を設立しました。同ファンドは、山口フィナンシャルグループ子会社の山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行が出資し、山口キャピタル株式会社及び株式会社Japan Search Fund Acceleratorが運営しています。
2020年2月、上記の第1号案件として株式会社塩見組(福岡県北九州市)をサーチャーである渡邊 謙次氏が、同社の全株式を取得し、代表に就任したと発表しました。塩見組は、創業から60年以上の歴史と実績があり、特に海上土木に強みを持つ会社で、全経営者が高齢となったため、サーチファンド活用による事業承継を行いました。事業を引き継ぐ渡邊氏の経歴は、家族経営の印刷会社に生まれ、海外MBAを取得しています。 (山口フィナンシャルグループによるプレスリリース) ・日本初の「Searchファンド」第1号案件の実行について
山口フィナンシャルグループのサーチファンドの取組は、2019年版「中小企業白書」にも取り上げており、今後の展開が注目されています。 【2020年12月2日更新】 「YMFG Search Fund」は2020年11月25日に、2号~4号案件の実行を発表しました。サーチャーと承継企業は以下のとおりです。 2号案件:横山隆氏=鉄工関連業者(広島県福山市) 3号案件:伊藤啓太氏=株式会社キャスリンク(広島県広島市) 4号案件:非公表=建設業者(岡山県)
(山口フィナンシャルグループによるプレスリリース) ・「YMFG Search ファンド」サーチャー3 名による事業承継の実現についておわりに
サーチファンドは、全国的な事業承継の課題を解決する手法として注目されており、経営者を目指す個人等においても、「0→1」ではなく、既存の経営リソースを活かし、経営者として活躍する手段として注目が集まっています。
ファンドという形態をとる上で、投資家がどのようなリターンを求めるか、またどのようなリターンを返していくかという視点が重要となります。事業承継の課題を強く抱える地域において、地域金融機関がサーチファンドの仕組みにいち早く着手したことは非常に興味深い展開です。今後、同様に地域金融機関を主体とした取組が広がるのか、地域金融機関以外の出資者により、事業承継の課題解決に取り組むのか、また、サーチファンドにより事業が引き継がれた企業の今後の事業展開等、これからの動きに注目したい取組です。