M&Aしたら従業員が退職!?従業員にとってのM&A

公開:2021年5月17日

コラム

M&Aにおいて、従業員の雇用が継続することは非常に重要な要素です。経営者同士では、従業員の雇用を大切にしていたとしても、実際にM&Aで買収される会社に勤める従業員にとってはどう映るのでしょうか。過去の調査レポート等を元に、「従業員から見たM&A」について、ポイントを解説します。

記事のポイント

  • 従業員にとってもM&Aは非常に重要。アンケート調査では42%が転職を考える結果に。
  • M&Aで従業員が感じるのは「不安」。特に「事業の方向性」「社内の雰囲気」が重要。
  • M&Aを成功させるためには、買手企業も従業員の不安を取り除く取組が必要。

従業員から見るM&A

M&Aにおいて、M&A後のシナジー効果を実現するためには、買収後の従業員の雇用継続は非常に重要な視点です。基本的には、M&Aにより買収される企業の経営資源はその企業の人材に起因することも多いため、売手企業・買手企業共に従業員の継続勤務を望んでいます

では、従業員の方はどうでしょうか?自分が勤めている会社が、M&Aとなった場合、従業員が退職してしまうということはないのでしょうか。また、M&Aに関して、従業員はどのような不安を持つのでしょうか? これについては、人事専門のコンサルティング・ファームであるクレイア・コンサルティング株式会社が興味深いアンケート調査結果を2016年に公表しています。「買収された会社(被買収企業)で働いている(いた)正社員400名」を対象に行ったアンケート調査です。

アンケート調査:「意識調査2016分析結果:被買収企業、M&Aの発表を聞いて転職を考える人は4割以上



この調査のうち、主なポイントは以下です。

■ 42%がM&Aの発表を聞いて、転職を考えた
■ 3年以内の退職者20%
■ 転職を考えた人は、「不安に感じた」割合が高い

M&Aの発表から、1年未満で退職した人が10%、1~3年で退職した人が10%とのことです。20%が3年以内に退職したことになります。ちなみに、日本の平均離職率は11.3%(平成30年、パートタイム労働者除く)であることからすると、一概に高いとも言えません(出典:厚生労働省「平成30年雇用動向調査結果」)。

M&Aで従業員が感じる「不安」

転職を考えた要因として、虚無感、反発、もともと転職を考えていた、など様々な事情・感情があると思いますが、「不安」が最も多いのではないかと思います。実際に、本調査においても、全体の「不安に感じた」割合より、転職を考えた人の「不安に感じた」割合の方が総じて高くなっています。

(出典:クレイア・コンサルティング株式会社「意識調査2016分析結果:被買収企業、M&Aの発表を聞いて転職を考える人は4割以上」)

また、「不安に感じた」項目のうち、全体では「自分の給与・賞与がどうなるか」が1位であるのに対して、転職を考えた人は「会社や事業の方向性がどうなるのか」が1位である点も興味深いです。

買手企業としては、上記の調査結果を参考にしつつ、「今後の会社の方向性」や「各人の所属・役職・処遇や業務内容」について、早めに説明をし、少しでも売手企業に勤務している従業員の不安を減らすことが、人材の流出防止に繋がります。

M&Aの成否はPMI(=Post Merger Integrationの略。買収後の経営・業務・意識の統合プロセスを指す。)によるところが大きく、PMIの成否は「PMIの事前計画による」と言われます。経営資源である売手企業の従業員の流出防止の観点からも、なるべくM&A実行前にM&A後の経営方針や人事詳細についても検討・計画しておき、なるべく早い段階で個々の従業員に伝えられる準備をしておくことが大事と思います。

(出典:クレイア・コンサルティング株式会社「意識調査2016分析結果:被買収企業、M&Aの発表を聞いて転職を考える人は4割以上」

おわりに

M&Aが成功するかどうかについては、特にM&A後に売手企業の従業員が十二分に実力を発揮して頂けるかにかかっています。上記のアンケート調査からも分かるとおり、M&Aは経営者にとってだけでなく、従業員にとっても非常に重要であり、勤務する中での不安により、退職も含めた今後のキャリアプランを検討する機会となってしまいます。M&A後も、重要な経営資源として活躍して頂くためには、買手企業も売手企業の従業員と向き合い、不安を取り除く努力が必要となります。