全国でベンチャー・スタートアップと呼ばれる「急成長」「出口戦略」を前提としたビジネスの成長が期待されています。ベンチャー・スタートアップの場合、資金調達を行う際に、金融機関による借入(デッド・ファイナンス)だけでなく、急成長を実現するため、投資家やベンチャーキャピタル(以下、VC)による出資(エクイティ・ファイナンス)を活用するケースも多くあります。地域においてもVCが存在しており、地域の新しいチャレンジを促進しています。今回は、中国・四国地域を中心とするVCやファンドの取組をピックアップしました。
記事のポイント
- 地域の資金調達環境は少しずつだが整備されつつある。
- 中国・四国地域にもベンチャー・スタートアップも活用できるVCやファンドが存在しており、地域金融機関系のVCが多い。
地域における資金調達環境
以下は、INITIAL社が公表している「2020上半期Japan Startup Finance」を元に、地域別の資金調達額を日本地図にプロットしたものです。ご覧のとおり、地域において濃淡はありますが、日本全国において色が濃くなっており、少しずつエクイティをベースとした資金調達環境が整備されつつあります。新型コロナウイルスの影響が出てくる前のデータとなりますので、2020年以降、この傾向がどうなるか注視する必要があります。
中国・四国地域のVC・ファンド
中国・四国地域VC・ファンドマップ
1)留意事項「中国・四国地域VC・ファンドマップ」は、クレジオ・パートナーズ株式会社が独自に作成したものであり、網羅性や正確性を完全に担保しておりません。ロゴのサイズ、配置に関しては、業界のシェアの大きさとの関連性は一切ございません。
2)掲載・更新について今後も不定期で更新を実施していく予定です。自社のサービスの掲載をご希望される方は、「saito@cregio.jp」までご連絡ください。すべてのご希望を承ることは出来ませんので、あらかじめご了承ください。
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中国地域のVC・ファンド
とっとりキャピタル株式会社
鳥取銀行、鳥取信用金庫、倉吉信用金庫、米子信用金庫等、地元の金融機関が中心になって設立されたVCです。現在「とっとり地方創生ファンド投資事業有限責任組合2号」(規模3億円、投資期間10年間)を運用中であり、アグリ分野やベンチャー企業だけでなく、事業承継も対象としています。直近では、スマホでつながる水産市場「UUUO」を開発する「ウーオ」(広島県広島市)にも投資実績があります。
【HP】http://www.tottoricap.com/index.html(参考)ウーオによるプレスリリース
とっとりまちづくりファンド
鳥取市、鳥取銀行、鳥取信用金庫が、共同出資したファンドであり、鳥取の中心拠点・地域生活拠点で、遊休不動産をリノベーションし、まちの魅力向上に資する事業を起業・創業する事業者の支援を目的としたものです。ファンド規模は8,000万円であり、運用期間は2033年1月31日までとしており、既に2号案件まで投資を発表しています。
【HP】https://www.city.tottori.lg.jp/www/contents/1541055148581/index.html(参考)第一号案件/第二号案件
ごうぎんキャピタル株式会社
島根県松江市に本社を置く山陰地域の第一地銀である山陰合同銀行(通称:ごうぎん)のグループ会社として運営されているVCであり、「ベンチャー・成長投資部門」と「事業再生支援部門」に投資対象が分かれています。
【HP】https://www.g-cp.jp/businessちゅうぎんインフィニティファンド
岡山県岡山市に本社を置く岡山の第一地銀である中国銀行と、そのグループ会社である中銀リースが2020年10月1日に発表したファンドです。リリースでは、「無限の可能性を持つベンチャー、スタートアップの企業を「エクイティ(出資)」の側面からサポートし、さらなる成長を目指す企業、起業家を応援するため」に設立したとのことです。ファンド規模は5億円であり、存続期間は約8年(2027年12月31日まで)としています。なお、公表同日に第一号案件としてアパレル商品の企画から納品まですべての工程を一元管理できるアパレル製造業に特化した生産管理のクラウドサービスの開発を行う「patternstorage」(岡山県岡山市)への出資も公表しています。
【HP(設立時のプレスリリース)】https://www.chugin.co.jp/news/831.html?y=2020(参考)「ちゅうぎんインフィニティファンド」第1号投資案件について
トマト創業支援ファンド
岡山県岡山市に本社を置く第二地銀、トマト銀行とフューチャーベンチャーキャピタル(京都府京都市)が共同で運営するファンドです。地方創生の一環として、創業支援を通じて地域経済活性化に貢献することを目的としており、株式上場を前提としない創業・第二創業者を投資対象とするファンドの設立は、中国地方で初めてとのことです。ファンド総額は3億円、運用期間は8年間(設立:2017年10月31日)であり、原則として岡山県内に本社または拠点を置く創業・第二創業者が対象となります。
【プレスリリース】https://www.tomatobank.co.jp/mt/pdf/news_20170915株式会社ひろしまイノベーション推進機構
広島県100%出資により、ファンドによる資金供給と社外役員の派遣等を通じて、投資先企業の成長をハンズオンで支援する目的で設立されました。現在運用中の「ふるさと連携応援ファンド」は、ファンド総額73億円、運用期間は2029年12月まで(但し最長2年延長可、設立:2020年1月)であり、広島を中心に、成長期への投資や、安定期の企業への事業承継支援等を対象としています。
【HP】http://www.hinet.co.jp/株式会社広島ベンチャーキャピタル
広島県広島市に本社を置く第一地銀である広島銀行と強い関連を持つVCです。1995年に創業されて以来、IPO実績28社、ファンド総額累計348億円(2020年11月現在)となっており、豊富な実績を有しています。直近でも、「重力制御装置 Gravite®(グラビテ)」、「歩行支援ロボットRE-Gait®(リゲイト)」を開発する「スペース・バイオ・ラボラトリーズ」(広島県広島市)へ出資を行っています。
【HP】https://www.h-vc.co.jp/(参考)スペース・バイオ・ラボラトリーズへの出資
ひろぎんキャピタルパートナーズ株式会社
ひろぎんキャピタルパートナーズは、2020年4月に設立された広島銀行 100%出資の投資専門子会社となります。「事業再生」「事業承継」「ベンチャー」「地域活性化」の形態を主とした投資活動を行っており、2020年7月に「事業再生」を主とするHiCAP1号投資事業有限責任組合(ファンド規模20億円)、「事業承継」を主とするHiCAP2号投資事業有限責任組合(ファンド規模20億円)、「ベンチャー」を主とするHiCAP3号投資事業有限責任組合(ファンド規模10億円)それぞれのファンドを立ち上げています。
また、「広島市平和記念公園レストハウス」を中心とした地域商社事業も展開しています。
【HP】https://www.hicap.co.jp/ツネイシキャピタルパートナーズ株式会社
海運・造船事業等のツネイシホールディングス(広島県福山市)によるCVC(=Corpotate Venture Capital)となります。投資対象ステージはシード、アーリー、ミドル、レイターのあらゆるステージが対象であり、国内国外問わず投資対象となります。
【HP】http://tsuneishi-cp.com/index.phpマリモスタートアップ投資
不動産事業から「ソーシャルビジネスカンパニー」を目指す株式会社マリモホールディングスのCVCです。単なる投資リターンが目的ではなく、市場の成長・社会問題の解決を目指すパートナーとして、アーリー期から事業シナジーの高いレイター期まで、幅広いステージの企業への支援を目的にしています。
【HP】https://www.marimo-hd.co.jp/cvc/山口キャピタル株式会社
山口県下関市に本社を置く第一地銀である山口フィナンシャルグループの関連会社であり、地域に根差すVCとして活動をしています。地域のものづくり職人が製造した商品を自社ECサイト「Craft Store」を運営する「ニューワールド」(福岡県)や、自由視点映像配信プラットフォーム「Swipe Video」を開発する「AMATELUS(東京都)」等、積極的な投資が目立ちます。
【HP】http://yamaguchi-capital.co.jp/せとうち観光活性化ファンド
瀬戸内地域の地銀7行が中心となり組成した瀬戸内地域7県(兵庫県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県)で行われる観光関連事業を対象としているファンドです。ファンド規模は98億円で、投資期間は10年間(2016年4月~2025年12月)となっています。瀬戸内の広域DMOである「せとうちDMO」の取組の一つであることも特徴的です。
【概要ページ】https://setouchitourism.or.jp/ja/service/fund/(参考)せとうちDMO
四国地域のVC・ファンド
四国ベンチャーキャピタル
徳島県に本社を置き、株式会社エフピーライフ(徳島県徳島市)が運営する「事業再生」「地方資源を使った地方の起業家へのスタートアップ支援」を目的とするVCです。
【HP】https://shikoku-vc.com/地域とトモニファンド
徳島銀行(徳島県徳島市)、香川銀行(香川県高松市)とフューチャーベンチャーキャピタル(京都府京都市)が共同で運営するファンドです。創業⽀援、事業承継⽀援、地域活性化⽀援が目的であり、トモニホールディングスグループ(香川県高松市)、⼤正銀⾏が連携しています。ファンド総額は約7億円で運用期間は2028年12月31日となっています。第1号案件として、た高効率ゲノム編集技術を有する徳島大学発のベンチャー企業「セツロテック」(徳島県徳島市)、ドローンの物流運行管理システムのプラットフォーム開発を手掛ける「かもめや」(香川県高松市)、不動産会社及び入居者向けのライフサポートサービスの開発・提供を行う「スマサポ」(東京都)に投資決定しています。
【フューチャーベンチャーキャピタルによるプレス】https://www.fvc.co.jp/item/news/sites/2/nr20190920.pdf(参考)「地域とトモニファンド」の第1号投資先企業の決定について
あなぶきスタートアップ支援ファンド
総合不動産業から地域に関する様々な領域の事業を手掛ける「あなぶきグループ」(香川県高松市)による、同グループとスタートアップとのオープンイノベーションによる事業領域の拡大強化・新規事業創出を目指すファンドです。フューチャーベンチャーキャピタル(京都府京都市)が運営し、ファンド規模は上限5億円で運用期間は約10年間(組成日:2018年3月1日)で、同グループとシナジーが高い先が対象となります。
【リリース】https://www.anabuki.ne.jp/news/detail/188HOXIN株式会社
香川県高松市に本社を置き、エンジェルラウンドに特化した地域では珍しいVCです。代表取締役社長に、ことでんグループ代表で、高松琴平電気鉄道社長等も務める真鍋康正氏が就任しており、2020年10月現在で10社(香川5件、岡山1件、徳島1件、愛媛1件、福岡1件、東京1件)の投資を実施しています。
【HP】https://hoxin.vc/四国アライアンスキャピタル
四国アライアンスは、四国の4行(阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行)の包括的な提携(アライアンス)から生まれたファンド運営会社です。愛媛県松山市に本社を置き、「事業承継」、「成長支援」、「再生支援」の3つがテーマとなっています。近年は事業承継案件で多くの実績があります。
【HP】https://sacapital.co.jp/いよぎんキャピタル株式会社
愛媛県松山市に本社を置く第一地銀である伊予銀行の関連会社です。「ベンチャー」「事業承継」「農林水産業」「大学発ベンチャー」等を投資対象としており、いよぎんグループとしての経営支援や、大学・自治体とのパートナーシップ、中国・四国、瀬戸内地域を中心とした投資に特徴があります。
【HP】https://www.iyo-capital.co.jp/index.htmlえひめ地域活性化ファンド
愛媛銀行(愛媛県松山市)、ゆうちょ銀行(東京都)、ひめぎんリース(愛媛県松山市)と、フューチャーベンチャーキャピタル(京都府京都市が)が共同で、愛媛県内の創業・第二創業者及び成長性の高い未上場企業等を対象としたファンドです。ファンド総額は3億円であり、運用期間は約10年間(設立日:2018年3月30日)となっています。
【フューチャーベンチャーキャピタルによるプレス】https://www.fvc.co.jp/item/news/sites/2/nr20180330.pdfオプティマ・ベンチャーズ株式会社
愛媛県松山市に本社を置き、四国地域内を中心としたベンチャー企業に対して、投資及び支援をしていく会社となります。フューチャーベンチャーキャピタルに勤めていた宮川氏が立ち上げたコンサルティング兼投資会社です。
【HP】http://optima-ventures.jp/company/しぎん地域活性化ファンド
高知県高知市に本社を置く第一地銀、四国銀行が組成しているファンドです。運用は、「四銀地域経済研究所」(高知県高知市)が行い、ファンド総額は5億円、存続期間は約10年(設立日:2017年1月24日)であり、起業・新事業展開等を目指す者に対して成長マネーを供給し、地域資源の活用、雇用の維持・拡大、地産外商の取組み等を支援することが目的となります。
【リリース】https://www.shikokubank.co.jp/newsrelease/4550.htmlオーシャンリース株式会社
高知県高知市に本社を置く第二地銀である高知銀行のグループ会社であり、総合リース会社としてリース事業を軸としたファイナンス業務に加え、ベンチャーキャピタル業務を担っています。直近では、高知大学発ベンチャーで内視鏡および医療用カテーテル等樹脂製医療機器の開発および製造販売を行う「ニレック」(高知県高知市)等へ出資しています。
【HP】https://www.ocean-lease.jp/ (参考)ニレックへの投資のプレスリリース(参考)地域に注目するVC
中国・四国地域以外にも、地域をフィールドにしたVC/地域に注目しているVCも存在します。地域でベンチャー・スタートアップに挑戦する中で注目すべきVCをピックアップしました。
株式会社MAKOTOキャピタル
宮城県仙台市に本社を置き、東北を中心にスタートアップ支援を行うMAKOTOグループのVCです。シード・アーリーステージを中心に投資を行い、アクセラレーターとして、創業初期の段階からハンズオン型で支援をしています。
【HP】https://mkto-capital.jp/株式会社サムライインキュベート
東京都に本社を置き、グルーバルに展開する独立系VCのサムライインキュベートですが、最近は、同社が中心となり、中国・四国地域の複数のVCをまとめ、創業直前後からミドルステージまでを支援する体制を整備するために「中四国Startup Runway」といった取組も始めています。中国・四国地域では、ペット用の野生鳥獣のサブスクリプションサービス「ペットさん定期便」を主軸に事業展開を行う「Forema」(広島県広島市)に出資しています。
【HP】https://www.samurai-incubate.asia/(参考)Foremaの資金調達リリース/中四国Startup Runway
株式会社Monozukuri Ventures
京都府京都市に本社を置き、「モノづくり」分野に特化し、スタートアップに対して、試作や量産化のためのサポート、工場やサプライヤーの選定、資金調達から大企業とのマッチング等のサポートを行っています。中国・四国地域では、導電性ナノインク開発の大学発ベンチャー「C-INK」(岡山県総社市)に投資を行っています。
【HP】https://monozukuri.vc/ja/(参考)C-INKへの投資プレス
株式会社ドーガン・ベータ
株式会社ドーガンが立ち上げたベンチャー支援専門会社が「ドーガン・ベータ」です。同じく、福岡県福岡市に本社を置き、九州を中心に地域のベンチャー・スタートアップに投資を行っています。中国・四国地域では、個室プライベートジムを運営する「ハコジム」(広島県広島市)や、ペット用の野生鳥獣のサブスクリプションサービス「ペットさん定期便」を主軸に事業展開を行う「Forema」(広島県広島市)に出資しています。
【HP】https://dogan.vc/(参考)Foremaへの出資プレス/ハコジムへの出資プレス
F Venture
福岡県福岡市に本社を置き、福岡地域を拠点としたVCです。プレシード・シードのスタートアップに投資・支援を行い、若手への支援にも注力しており、国内最大級の学生向けスタートアップイベントTORYUMONを主催しているのも特徴です。
【HP】https://f-ventures.vc/#topGxPartners
福岡県福岡市に本社を置き、シード・アーリーステージのスタートアップを対象に、資金提供だけではなく、パートナーである事業会社のリソースと掛け合わせることでスタートアップの成長を促す支援を行っていることが特徴です。
【HP】https://gxpartners.vc/index.htmlThe Independents Angel投資事業有限責任組合
NPO法人インデペンデンツクラブと連携しながら、全国の起業家、ベンチャー企業に投資・支援育成を行うファンドであり、「Kips」(東京都)が運用しています。数名のエンジェル投資家が適格機関投資家として参画しており、投資期間は8年(延長最長2年、設立:2018年12月3日)で、日本国内のスタートアップ企業が対象であり、地域も含めた全国を視野に入れた取組を行っています。
【設立のプレス】http://www.independents.jp/article/item001707(参考)Kips/インデペンデンツクラブ
おわりに
中国・四国地域の場合、VCは地域金融機関系が多く、独立系のVCの数は少ないのが現状です。他方、エンジェル投資を中心とするHOXINや、過去の実績が豊富な広島銀行系、最近立ち上がった中国銀行系、積極的な投資を展開する山口フィナンシャルグループ系等、様々な特色があります。また、サムライインキュベートが中心となった「中四国Startup Runway」等、地域をまとめる動きもあり、こういった流れを活用し、地域のベンチャー・スタートアップが成長を実現できるかが、今後の地域活性化のカギとなります。