「事業承継ファンド」について解説!ファンドを活用するためのポイント

公開:2021年3月24日

コラム

全国的に事業承継が課題となる中、「事業承継ファンド」の活用についても注目が集まっています。「事業承継ファンド」は投資ファンドの一種であり、企業の株式に投資し、投資先の企業価値を高めたうえで、株式売却をして利益を上げることを専門に行う投資会社が運用するファンドになります。「事業承継ファンド」が、地域における事業承継の課題解決に有効なのか、その概要と活用するためのポイントを解説します。

記事のポイント

  • 「事業承継ファンド」「投資ファンド」の一種。「事業承継ファンド」は株式取得後、事業成長させて、事業会社へM&A等することで投資家へリターンを返す仕組み。
  • 「事業承継ファンド」は企業価値を向上させるための様々なサポートを実施。
  • 地域においても、行政や地域金融機関を中心に「事業承継ファンド」が設立されており、今後の動きに注目。

事業承継問題を解決するパートナー!「事業承継ファンド」

「投資ファンド」の仕組みとは

「事業承継ファンド」は、「投資ファンド」の一種です。「投資ファンド」は、企業の株式に投資し、投資先の企業価値を高めたうえで、株式売却をして利益を上げることを専門に行う投資会社で、いわば企業投資のプロです。

投資ファンドは、多数の投資家から預かった資金を運用しており、厳密には、その資金のことを“ファンド”と言いますが、このコラムでは簡便的に、その資金を運用する投資会社のことを投資ファンドと呼びます。

なお、ファンドの運用期間は、7~10年程度が一般的です。

「事業承継ファンド」とは

「事業承継ファンド」は、投資ファンドの中でも、主に「事業承継問題を抱える非上場企業」に対して投資するファンドです。後継者問題を抱える非上場企業のオーナーから株式を買取り、当該企業の次世代の経営体制や事業基盤を整備・強化した後、新しい親会社となる事業会社を探して株式を譲渡し、株式譲渡による売却益によりリターンを得ることとなります。後継者は、投資先企業の内部から抜擢することもあれば、内部に適任者がいない場合は外部から招聘することもあります。投資から譲渡までの期間は、3年~5年程度が多いです。

「事業承継ファンド」については、「転売で利益を得るだけでは」と捉えられることもままありますが、事業承継に悩む非上場企業・オーナーにとっては、①後継者・後継経営陣の育成、②経営基盤の整備・強化、③最適な親会社の探索を実行することが可能となるため、その対価としてのリターンとして捉えることで、事業承継問題を一緒に解決してくれるパートナーと捉えることもできます。

「事業承継ファンド」の活用方法!経営支援の内容について

投資先の企業価値を向上させるためには、新たな経営陣による経営体制、経営基盤の整備等が必要です。事業承継ファンドは、企業価値向上の実現を目指し、次のような経営支援を行います。

  1. 財務・経理・総務等の管理業務や諸規程整備の助言・支援
  2. 組織的経営や経営管理方法の助言・支援
  3. 経営人材の育成、又は外部からの招聘・派遣
  4. 取引先やパートナー企業の紹介(海外含む)
  5. M&A情報及びM&A資金の提供
  6. IPO準備支援
  7. 事業戦略、経営、人事、資本政策などの助言

「事業会社へのM&A」、「事業承継ファンドへのM&A」のメリット・デメリット

事業承継に悩むオーナー経営者にとって、「事業会社への譲渡(M&A)」と「事業承継ファンドへの譲渡(M&A)」は、どのような違いがあるのか、それぞれのメリット・デメリットを整理しました。

事業会社への譲渡(M&A) 事業承継ファンドへの譲渡(M&A)
メリット ・相互の事業の相乗効果が期待できる ・(ファンド自身は事業を行っていないため)色がなく独立系を維持できる
・(ファンド自身は事業を行っていないため)経営・営業方針、文化を継続しやすい
・現経営陣が継続しやすい
・自主性を維持しつつ、成長にチャレンジできる
・同業内で情報が漏れることがない
デメリット ・経営陣が継続できないことがある
・経営・営業方針、文化が変わる可能性がある
・3~5年後に、親会社が変わる ・数字・利益重視の経営方針になることもある

現在の事業・組織の状況と、今後事業承継や自社の経営をどうしたいかの意向により、いずれが良いかを選択することになります。例えば次のような状況・意向がある場合は、事業承継ファンドへのM&Aは良い選択肢になり得ます。

  • 特定の親会社の傘下に入らず、社内の次世代経営陣の自主成長路線にチャレンジさせてあげたい。
  • オーナー経営から組織経営へ脱却したい。現経営者だけではやり切ることが困難なため、外部の力を借りたい。
  • 成長加速のための積極投資を行いたい。そのために、オーナー資本から脱却して信用や資金調達力を上げたいが、独立性も維持したい。
  • 将来的に上場を目指したいが、自社のリソースだけでやり切れるかわからないため、外部の力を借りたい。
  • (これまで同業ライバル会社と激しく競争してきた等の事情があり)現経営者の手から、同業等に譲渡することはできない。後継者不在のため、ファンドに譲渡して事業承継のリスクを回避し、ファンドと次世代経営陣が一緒になって新たな親会社を探すのが良い。

中国・四国地域で注目すべき事業承継ファンド

中国・四国地域で注目すべき事業承継ファンドをピックアップしてご紹介します。

ひろしまイノベーション推進機構

広島県100%出資で設立された投資ファンドで、これまで3号ファンドまで立ち上がっています。3号ファンドでは、投資対象地域を『広島を中心とする経済圏』に拡大し、広く地域経済を支える地場企業の事業承継やイノベーションを支援し、地域経済の発展に寄与することを目指しています。

(HP)http://www.hinet.co.jp/

ひろぎんキャピタルパートナーズ

広島銀行の100%子会社であり、『事業再生』『事業承継』『ベンチャー』『地域活性化』を主とした投資活動を実施しています。

(HP)https://www.hicap.co.jp/

四国アライアンスキャピタル

四国の活性化や創生に取り組むため、四国の4行(阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行)が包括的な提携(アライアンス)を結ぶことで生まれた投資ファンドです。「事業承継に課題を持つ事業者」「会社の更なる成長を目指す事業者」「起業や新事業展開を企図する事業者」が対象となり、事業承継の場合、投資実行のタイミングで役員派遣等も行い、組織的経営への移行サポート等を行います。

(HP)https://sacapital.co.jp/

また、山口県では、山口フィナンシャルグループが、サーチファンドというスタイルで「YMFG Search Fund」を立ち上げ、事業承継に新しい切り口で取り組んでいます。

参考:サーチファンドを解説。事業承継は経営者を目指す「個人」が活躍する時代へ。

おわりに

「事業承継ファンド」について、その概要やメリット・デメリットを取り上げました。全国的に事業承継が課題となる中、地域でも事業承継の課題は深刻化しており、事業会社へのM&Aだけではなく、事業承継ファンドを活用したM&Aの活用も一つの選択肢として注目されます。

特に事業承継ファンドの場合、将来的なリターンが目的となりますので、ファンドに承継することで、単純な事業引継ぎだけでなく、将来的な事業成長を目指すこととなります。事業承継を契機にファンドのサポートを受けながら、どのような事業成長を目指すかという事業承継も、地域にとって興味深い展開だと感じます。地域金融機関をはじめ、サーチファンド等の新たな取組も見られ、今後それぞれのファンドの展開にも注目が集まります。