ライフスタイルホテルやロッジなど7施設を運営 宿泊にとどまらず、体験型コンテンツづくりに注力

公開:2022年6月30日

ピックアップ企業

Vol.1 注目のピックアップカンパニー
株式会社サン・クレア


福山市に本社を置き、広島・岡山・愛媛でビジネスホテルやロッジなどの宿泊施設7棟を運営する。ホテル運営から派生する形で体験型のコンテンツ制作に注力し、アフターコロナを見据えた経営に舵を切る。取締役の川口康太さんに今後のホテル業の将来展望や経営方針、M&Aへの意欲について話を聞いた。

 ―現在の事業内容を教えてください。

広島県福山市と愛媛県宇和島市でオリエンタルホテルを約30年運営してきたノウハウを生かし、「単に寝泊まりするだけではないホテル創り」にチャレンジしようと、2015年に設立した会社です。2018年に地元企業とコラボレーションをした新コンセプトホテル「ANCHOR HOTEL FUKUYAMA」を皮切りに、積水ハウスと連携して広島と倉敷で10室前後のホテル3棟を運営しています。20年3月からは愛媛県松野町のリゾートホテル「森の国ホテル」の経営を引き続き、現在、宿泊施設7棟を運営しています。

 ―森の国の経営引き継ぎについて教えてください。

自治体から施設2棟「森の国ホテル」と「森の国ロッジ」の譲渡を受けました。それまでは指定管理制度で町の関与が強い形で運営されていましたが、経営面で苦労されていました。経営不振に加えて、2018年の西日本豪雨によって道路などが被害を受けたのを理由に閉鎖していたものでした。2棟のうち、小ぶりなロッジを先行して『四万十源流 森の国「水際のロッジ」』として、コロナ感染が広がる直前に再オープンしました。この場所は四万十川の源流にあたり、自然豊かな国立公園の滑床(なめとこ)渓谷や、多彩な食材に恵まれており、コロナ前は東京や関西からの旅行客を想定していました。しかしコロナ禍で難しくなり、現在は関係人口を増やすためのイベント運営に注力しています。また「プチ移住」の候補先としてアピールしており、実際に代表の細羽が移住して、新たな生き方の提案に取り組んでいます。

 ―御社の強みは。

やはりオリエンタルホテルで培ったホテル運営、そして再生のノウハウでしょうか。代表の細羽は厳しい経営環境下で経営を引き継ぎました。インターネット販売がこれからの主流になるだろうと考えて先駆けて売り方をシフトし、さらに単に泊まる場所ではなく、ビジネスマンに憩いの場を提供するという方針が支持されて再生させたのがオリエンタルホテルです。現在は2棟のホテルで収益基盤を築きつつ、次の一手としてANCHOR HOTELなど次の時代を見据えた投資を進めています。
 オリエンタルホテルや積水ハウスさんの案件は企業絡みの案件で、森の国は行政寄りの仕事です。その両方を手掛けているのも特徴の一つです。

 ―コロナで旅行業、ホテル業に多大な影響が及びました。今後の業界の方向性は。

例えば、ビジネスホテルは機械的に運営するだけではなく、こだわりのある朝食提供や、大浴場だとか、ならではの強みを生む必要があります。当社はANCHOR HOTELのように、ホテルを拠点に地域で頑張っている飲食業の人やものづくりをしている人などを招いたイベントを開き、今後は地域のものづくり企業の製造工場を巡るツアーを検討しています。インバウンドが増えてくるときには、われわれは地元に根差したコンテンツを提供し、その地域・ホテルならではの楽しみを存分に味わっていただきたいと考えています。

 ―ご自身も旅行のガイドをされているようですね。

女性のスタッフと共に、広島駅から近い二葉山で登山と野点(野外で点てる茶道)を楽しんでもらうツアー「Asagesiki」や、市内を自転車で巡るサイクリングガイドツアー「Sokoiko」の運営に関わっています。目的のある旅をつくるために、われわれホテル事業者が地域で楽しむコンテンツまで一気通貫でプロデュースしたいという思いがあり、一緒に学ばせてもらっています。

 ―会社の具体的な取り組みは。

4月に組織改編を実行し、従来のホテル部門と、限界集落などで関係人口の創出や地域活性化に取り組む事業の2つに大きく分割・整理しました。ホテル部門は従来の流れを踏襲し、各施設が自立して利益を上げる体制構築を進めます。一人一人のお客さまに満足してもらう、感動を与える、期待値を超えることを一層突き詰めます。
 後者は細羽社長が愛媛県で最も人口の少ない松野町に移り住み、今後さらにサステナビリティー(持続可能性)が求められる中で、新しい暮らし方から提案する事業を本格化します。今、力を入れているのはキャンプ事業。まずイングリッシュキャンプは、地域で53年にわたり続いていたもので、それを2019年に復活させました。大自然の中で英語を使いながら、多様な人々と遊び学ぶことで自己表現し、国際交流の楽しさや大切さを感じてもらいます。去年からは「NAME CAMP」という、大自然の中で10泊11日という長い時間をかけて「生きる力」を身に付ける小中学生向けの野外教育プログラムも提供しています。これらを、交流人口を増やす一つの事業に位置付けています。

現在、東日本大震災のあった福島県でもツアーづくりにコンサルティングで携わっています。原子力発電所の影響が大きかった相馬町の案件で、大震災を経て過去、現在、そして未来にどう向かっているのかというプログラムを組んでいます。被害者も海側と山側で異なるので、そのあたりも可視化して体験にするときの助言をさせてもらっています。ストーリーをミクロとマクロの視点で見つめ、子供向けツアーでの注意点などを共有しています。この夏から正式にスタート予定です。こういったことを広島でもしたいと思っています。sokoikoと合わせて広島を知ってもらうなど、独自のコンテンツづくりに生かしていきたいです。ほかの地域でも案件があれば協力したいです。

 ―M&Aへの意欲は。

内容次第ですが、ホテルの機能拡充を考えています。例えば、収益体制の構築に向けて、複数の古民家などを所有して、既存ホテルをハブにして宿泊客を回遊させる仕組みなどが考えられます。またシナジーを発揮できる違う業種の可能性もあります。例えば旅行業です。旅行業認可があれば一層幅広い展開になります。森の国だと、地域の農産物のネット販売の仕組みを構築できる企業などがあるかもしれません。私たちは価値観共有を重視しているので、そこを共有できればさまざまな可能性を探りたいと考えています。
 またホテルの再生案件の話が来たら、コンサルとしてノウハウ提供する可能性はあるかもしれません。ビジネスホテルや地域とのつながりを重視したANCHOR HOTEL、企業と組んだ小規模なホテル、限界集落にあるロッジなど、さまざまなパターンの宿泊施設の経験があるので、状況に合わせた提案ができると考えています。

【会社名】株式会社サン・クレア
【代表者名】細羽 雅之
【売上高】6億5000万円(2022年3月期)
【従業員数】110人(パート・アルバイト含む)
【公式サイト】https://sun-crea.biz/