意向表明書(LOI)とは?M&A用語を分かりやすく解説

公開:2021年6月14日

コラム

はじめに/意向表明書(LOI)のポイント

最近は、人気テレビドラマ日曜劇場『半沢直樹』でもM&Aがテーマに取り上げられる等、M&Aがどんどんと中小企業経営者の身近なものになっています。一方、専門的な用語もあり、戸惑う方も多くいらっしゃるのではないかと思います。今回は、中堅中小企業のM&Aの検討を進めるにあたって、意向表明書(LOI)について理解を深めて頂くために、M&Aの現場の視点を交えながらそのポイントをまとめました。

本記事のポイント

  • 意向表明書(LOI)は、買い手が売り手に“譲り受けの意向”を示す重要な書面。
  • 意向表明書(LOI)に法的拘束力はないが、一定程度の諸条件は詰めるべし。
  • 記載内容は様々。レアケースだが、中には金額の記載のないものも。

LOI(意向表明書)の定義・目的

LOIは、Letter Of Intentの略称であり、日本語では「意向表明書*」を意味します。意向表明書は、買い手候補が売り手の経営陣(主に代表取締役)や株主(主に筆頭株主)に対して出す書面のことです。その目的は、その名のとおり、買い手候補が売り手に“譲り受けの意向”を示すためのものであり、譲り受けるための条件が記載されています。M&Aでは、売り手にとって、買い手候補の譲り受けの意向を承諾することは最重要意思決定にあたり、口頭で行うことも可能です。しかし、買い手が、改めて書面で提出することで、案件に対する買い手候補の本気度を売り手に示すことができます。一方、M&Aアドバイザーは意向表明書のやり取りを通じて、この買い手候補の意向をしっかりと見極め、把握することができます。

* 基本合意書を意味することもありますが、中堅中小企業のM&A仲介の中では、意向表明書を指すことが多いです。買い手から意向表明書の提出を受け、双方が条件に納得した場合、基本合意書を締結します。

意向表明書(LOI)提出のタイミングと提出後

中小企業のM&Aにおける意向表明書が提出されるタイミングは、買い手候補の経営陣と売り手候補の経営者による、いわゆるトップ面談(事業者面談)後を想定していることが多いです。入札形式の場合や、相対形式でも多数の買い手が想定される場合は、買い手候補を絞るために、トップ面談前に提出することもあります。

売り手が意向表明書を受領した場合、内容を確認・検討するために、買い手への返答期間に約1-2週間ほど要します。中には翌日ご返答される方もいますが、売り手にとって重要な意思決定であるため、そういった即断即決は珍しいケースです。

LOIには何が書かれているか?LOIの記載事項

LOI(意向表明書)には、大まかに下記の事項(例:金額や今後のスケジュール)が含まれています。文書の量で言えば、A4で 2~3枚程度となるケースが多いです。当社では少なくとも下記の内容を盛り込んでいます。ただし、厳密にはLOI(意向表明書)は、法定の書類ではないので、案件の性質によって記載項目、内容が変わることにご留意ください。

①前段の挨拶

形式的な内容となりますが、しっかりと買い手の誠意が売り手の経営者に伝わるようなスタイルが一般的です。

②M&Aの目的

はじめに、買い手の会社概要を記載します。社名と本店所在地、代表者名と基礎的な情報に加えて、買い手が複数の事業を展開している場合、売り手とシナジーが出そうな買い手の事業概要を記載します。

次に今回譲り受ける売り手企業の事業概要と絡めて、買い手が、なぜM&Aを希望しているのかについて、その目的(例:エリア拡大、周辺事業の参入)や自社の背景を記載します。

本項目の最後に、買い手企業の経営者としての“想い”や“意向”を改めて記載します。

③希望条件

以下の項目について、事業を譲り受けるための条件を記載します。

  • スキーム(例:株式譲渡、事業譲渡)
  • 金額(計算根拠を書かないケースが多いです。原則として指値。)
  • 役員退職慰労金(金額、支給時期)
  • 役員借入金・貸付金(金額、精算時期(M&A時のケースが多いです。)
  • 譲渡対象外資産(売り手経営者所有の本社不動産、車、保険、絵画など)
  • 連帯保証の取り扱い 等

④役員の処遇・引継ぎ

M&A後の役員について、それぞれ記載します。

  • M&A時の役職変更の有無、有ればM&A後の役職
  • 引継期間、引継期間における報酬額 等

⑤従業員の待遇

  • <事業承継型M&Aの場合>不利益変更等はせず、雇用継続及び雇用条件を維持する旨
  • <特殊な要望がある場合>特殊な要望の内容(※できるだけ丁寧に記載することが大切です)

⑥今後のスケジュール

M&Aを進めるに際し、予定しているスケジュールを記載します。重要なポイントは「基本合意書の締結時期」、「デューデリジェンスの時期」、「クロージングの時期(最終契約書の締結時期)」です。ただし、当該段階では暫定的な予定なので、大体の目算を記載します(事業者面談前であれば、「事業者面談」のスケジュールについても記載します)。

⑦秘密保持

意向表明書の内容は重要な機密事項なので、秘密保持について記載します。

記載例:「本意向表明書の内容および弊社が本件取引を検討している事実につきましては、弊社の事前の承諾なく、第三者への開示、漏洩等をしないようお願い致します。」

⑧付帯条項

法的拘束力がない旨を記載します。

記載例:「本意向表明書は、本件に関する現時点での弊社の意向をご提示させていただくものであり、法的拘束力を有するものではない点につき、予めご了承ください。」

⑨その他

案件の規模等に応じて、以下の項目を記載します。

  • 買い手の資金調達方法
  • デューデリジェンス(調査内容、調査実施者、調査期間など)
  • 独占交渉権
  • 意向表明書の有効期限(1ヶ月~3ヶ月ほど)
  • 買い手の検討メンバー
  • 売り手にその他の要望があれば、買い手が答える形で記載 など

以上が、意向表明書の記載事項です。事案により記載項目、内容は変わりますが、一つの例として、皆さんの検討のご参考となれば幸いです。