はじめに
地域には様々な産業があり、M&Aを検討する上でも、それぞれの産業特性を考えた上で、売手・買手、双方の状況やニーズ・課題を把握することが必要です。山口県の経済・産業の概況や、休廃業・解散、倒産件数に加え、後継者不在率を全国と比較し、山口経済を俯瞰しつつ、山口地域で実施されたM&A案件をピックアップしました。
山口県経済の概況
山口県は、平成29年度名目県内総生産 6兆4,131億円(2017年度)であり、その成長率は +3.2%となっており、生産面では製造業を中心とした二次産業は2年連続の増加となっていますが、野菜の産出額が減少したことにより農業が11.8%のマイナスとなっており、一次産業が3年ぶりのマイナスとなっています。
人口は、約134万人(令和2年6月1日時点)であり、産業の特徴は、瀬戸内海沿岸部を中心に化学工業を中心とした製造業が発達しています。化学だけでなく、輸送用機械、医薬品等のメーカーも工場を立地しています。県庁所在地である山口市、九州経済圏と近接している下関市、歴史観光で注目を集める萩市、山口大学のキャンバスがある宇部市、化学産業が盛んな防府市・周南市等、一極集中ではなく、分散型の都市を形成しているのが山口県の特徴です。
山口県の休廃業・解散、倒産の状況
2019年の山口県の休廃業・解散件数は286件であり、前年比-11.5%と減少傾向が続いています。また倒産件数は、58件であり、2年ぶりに減少しました。業種別では、「卸売業」「建設業」「小売業」は減少傾向ですが、「不動産業」が最も増加率が高い結果となりました。件数では「建設業」が最も多く、次いで「サービス業」「小売業」と続きました。
全国における2019年度の休廃業・解散件数は 23,634件であり、山口県が占める割合は、1.2%となっています。倒産件数については、全国では 8,354件であり、山口県が占める割合は、0.7%となっています。(出典:帝国データバンク調査より)
(出典:帝国デーバンクより当社加工)山口県の後継者不在率
2019年の山口県の後継者不在率は74.7%であり、全国の中で3番目に位置しています。業種別では、「不動産業」がトップで83.8%となっており、継いで「建設業」が78.4%となりました。全国における後継者不在率は、65.2%であり、「建設業」がトップで70.6%となっています。
(出典:帝国デーバンクより当社加工)山口地域で起こったM&A事例
直近で山口県の地域経済においてインパクトが大きいM&A案件をピックアップしました。事例① 医療法人社団葵会が医療法人水の木会から事業譲受(2019.6発表)
広島発祥で全国に病院・老人介護施設等を展開する医療法人社団葵会(東京都)が、医療法人水の木会(山口県下関市)が下関市で運営する江藤病院の事業を譲り受け、「あずま病院」に名称変更が行われました。同業同士の事業譲渡事例です。
事例② みどりHDが山口調理機を子会社化(2019.1発表)
不動産事業、介護・保険事業、フード事業等を展開するみどりホールディングス(広島県広島市)が、厨房機器販売・保守管理業を営む1975年創業の山口地域有数の企業である山口調理機(山口県防府市)を子会社化しました。両社の事業シナジーを意識した地域でのM&A事例です。
事例③ 穴吹ハウジングサービスがプランドゥより事業譲受(2019.4発表)
穴吹興産の親会社であり、マンション管理を行う穴吹ハウジングサービス(香川県高松市)が、施設管理業・飲食業を展開するプランドゥ(山口県下関市)から、山口・北九州のマンション管理業務を譲り受け、事業を拡大しました。
事例④ カシワバラ・コーポレーションがDRONE PILOT AGENCYへ出資(2020.7発表)
山口県岩国市と東京に本社を置き、建築・修繕メンテナンス事業等を展開するカシワバラ・コーポレーション(山口県岩国市/東京都)が、建設系ITスタートアップに投資するプロジェクト「JAPAN CON-TECH FUND」を通じて、設備点検・災害対策・警備監視の領域を中心に社会インフラDXのリーディングカンパニーを目指すセンシンロボティクスへ出資しました。地域大手企業が最先端のテクノロジーを持つスタートアップ企業へ投資を行ったマイノリティ出資事例です。
おわりに
山口県は、瀬戸内沿岸地域を中心に化学工業等の製造業が発達した地域であり、分散型の都市圏を形成しています。休廃業・解散、倒産件数は、全国の約1%前後となっており、後継者不在率については、全国において3番目と非常に高く、特に不動産業では8割の企業で後継者がいない状況です。
M&A案件では、事業承継をきっかけとして地域で事業継続を目指す事例や、事業領域の拡大を目指す事例がみられました。山口だけの視点ではありませんが、地域の中堅・大手企業が最先端テクノロジー企業へマイノリティ出資を行う事例もあり、既存産業と新しいビジネスがM&Aを通じて、融合していく様子が窺えます。後継者不在率が全国3番目であり、事業承継の課題は根強く、今後、事業承継型・業界再編型のM&A等を有効に使うことで、産業の転換・維持を図る必要があると考えられます。